本稿は、私たち(AEO総研™)が、消費財から金融・通信、BtoB のサービスまで、50を超えるカテゴリでAIの推薦を継続的に観測してきた立場から、国内外の調査データを照らし合わせて整理したものです。情報行動が「検索して選ぶ」から「AIに尋ねて選ぶ」へ移りつつあることは、別稿で整理しました。本稿は、その移行が、購買にいたるプロセスそのものを、どう作り替えているか――に焦点を当てます。公開レポートの要約ではなく、観測に裏打ちされた読みとして書いています。
選び方の順序が、変わりました。
人がものを買うとき、これまでは「気になったら検索し、複数のサイトを見比べて、決める」という順序をたどっていました。AIとの対話が入口になると、変わるのは入口だけではありません。その先の「選び方」の順序そのものが、組み替わります。
まず、商品を調べる最初の段階から、AIが使われはじめています。ベイン・アンド・カンパニーの米国購入者調査では、商品リサーチの起点に生成AIを使う、あるいは検索と併用する人が、4割を超えました。調べはじめにAIの回答を信頼すると答えた人は5割を超え、若い世代では9割近くに達しています。
調べる工程が短くなれば、そのぶん、最初に提示された候補の比重が、重くなります。
初日の候補リストが、そのまま最終リストです。
ここに、静かですが、見過ごせない事実があります。
ベインのBtoB調査では、購買者の85%が、検討の初日につくった候補リストのなかから、最終的な購入先を選んでいました。裏を返せば、最初の候補に入れなかったブランドが、その後どれだけ良い記事を出し、どれだけ広告を打っても、選ばれる見込みは、ごくわずかしか残らない、ということです。
そして、その初日の候補リストを、いま、誰が書いているのか。第三者のレビューでも、検索結果でも、営業担当でもなく、AIです。あるソフトウェア購買の調査では、候補リストへの影響力で、生成AIが他のあらゆる情報源を上回り、首位に立ちました。
「あとから挽回する」という前提が、崩れつつあります。挽回すべき土俵に、そもそも上がれているか――問いは、そこへ移ります。
候補は、自社サイトに来る前に、決まります。
リンクを開かずに、AIの答えだけで判断を済ませる行動が広がっていることは、別稿で見たとおりです。これが購買の流れに重なると、一つの帰結が際立ちます。自社サイトに人が訪れる頃には、その人が誰を候補に入れるかは、すでに決まっている、ということです。
かつては、検索結果から自社サイトに来てもらい、そこで説得する余地がありました。いまは、その説得の前に、AIとの対話のなかで候補が絞られています。実際、AIの要約が出た検索では、利用者がリンクを開く割合が半分ほどに下がる、という実測もあります(ピュー・リサーチ)。流入数やクリック率といった、これまで頼ってきた指標は、この「来る前の選別」を、ほとんど捉えません。検索そのものの量も、今後数年で大きく目減りするという予測(ガートナー)が出ています。自社サイトの手前で何が起きているかを、別に見にいく必要があります。
購買そのものも、対話の先で起きはじめています。
検討だけではありません。買うという行為そのものも、AIとの対話の延長で起きはじめています。米国の調査では、買い物の推薦にAIを使う人がすでに4割を超え、「今年のうちに使う予定」と答えた人を含めれば、さらに広がります。
その先で進む決済の自動化や市場規模については、別稿で扱います。本稿で確認しておきたいのは、入口・候補選び・購買という一連の流れが、まとめてAIとの対話の側へ寄っていく、という方向性です。
レビューを、見に行かなくなりました。
かつては、気になった商品のレビューページを開き、自分で読み比べていました。いまは、その手前で、AIが複数の声を要約して示します。「収納は好評だが、留め具がやや弱いという指摘もある」といった具合に、判断材料が、対話のなかで直接、手渡されます。
結果として、レビューサイトやクチコミの個別ページを開く必要が、薄れていきます。米国では、商品の推薦をAIに頼ると答えた人が、3年で倍以上に増えました。
ここで効いてくるのが、AIが「他の利用者の声」として代弁している中身が、どこから来ているか、です。その出どころは、自社の説明文ではなく、外の第三者の語りです。「どの引用元・参照元が効くか」という地形の話は、別稿で詳しく扱っています。本稿で押さえておきたいのは、レビューを読む工程ごと、AIに吸収されつつある、という点です。
日本でも、購買に近い行動から、AIが使われはじめています。
ここまでの数字は、多くが米国のものです。けれども、日本でも、同じ向きの変化が――とりわけ、購買に近いところで――進んでいます。
ある国内調査では、生成AIを使う若年層のうち、約3割が、商品やサービス、企業の比較・検討にAIを使っていると答えました。BtoB でも、意思決定者の約4割が、情報収集に生成AIを使っているという調査が出ています。
情報に触れるだけでなく、「何を買うか」「どの会社に頼むか」を絞り込む場面で、AIが使われはじめている――この点で、日米の時差は、ほとんど見えなくなってきています。
「意識」と「対策」のあいだに、空白があります。
最後に、もうひとつ。
2026年に公表された国内の広報担当者調査では、生成AIの回答に自社が引用・言及されることを意識している、と答えた人が8割を超えました。一方で、実際に何らかの対策をとっている人は、3割台にとどまります。そのあいだに、およそ50ポイントの空白があります。
この空白は、関心が低いせいではありません。多くの担当者は、すでに気づいています。止まっているのは、その手前――「何を測ればいいのか」「いまの自社は、AIから見てどう映っているのか」が、見えていないからです。
裏を返せば、入口・候補・購買がAIに移りきる前のいまは、まだ間に合う時間帯だ、ということでもあります。動いている企業が少ないうちに、自社の現在地を知っておくこと。それが、初日の候補リストに残るための、最初の一歩になります。
いまの自社は、AIから見て、どう映っているでしょうか。
その問いから始まる無料の診断ツール「CWO Site Audit」を公開しています。観測から始まる、というだけのものです。
Site Audit を試す →本稿は、購買の入口がAIとの対話に移りつつある、という変化を、国内外の調査から業種横断の構造として整理したものです。個別の企業名・サイト名や、観測の具体的な手法には立ち入っていません。決済の自動化や市場規模、そしてAIによる誤情報がもたらす信用上のリスクとその法的構造については、続く稿で扱います。
- Bain & Company(商品リサーチでのAI起点・併用/調べはじめのAI信頼/BtoB「初日のショートリストから決定」/買い物でのAI利用)2025〜2026年
- G2「2025 Buyer Behavior Report」(ベンダーショートリストへの影響源)
- Pew Research(AI要約表示時のリンククリック率)2025年7月
- Gartner(検索ボリュームの減少予測)
- Adobe Analytics(買い物での生成AI利用・利用予定)2026年1月
- Onely(商品推薦でのAI依存・3年で倍増)2026年2月
- メディアリーチ(国内若年層の商品・サービス比較利用)2025年5月(n=1,008)
- バクリ株式会社 R&D(国内BtoB意思決定者の情報収集利用)2026年
- コーレ株式会社(国内広報担当者の意識/対策の比率)2026年5月
※ 引用した数値は各調査の公表時点のものです。最新値は各一次調査をご参照ください。