本稿は、公開されている国内外の利用者動向と、私たち(AEO総研™)の継続観測をもとに、この変化が、なぜ「日本市場に固有の計測」を必要とするのかを、振り返り(retrospective)として整理したものです。引用した数値はすべて、末尾に出典を明記しています。
まず、世界で、クリックなしの情報取得が当たり前になりました。
海外では、検索の相当割合が、外部サイトへのクリックを伴わずに完結する「ゼロクリック」の状態が、すでに常態になっています。複数の独立した調査(SparkToro/Datos、Bain & Company、Semrush ほか、2024〜2026年)は、米国・欧州のGoogle検索のおおむね6割前後が、どのサイトもクリックされずに終わる、と報告しています。
背景にあるのは、AIによる要約表示の普及です。BrightEdge(2026年2月)は、AIの要約が、全検索の約48%に表示されている、と測定しています。検索が「入口」ではなく「答えそのもの」になりつつある、ということです。利用者は、リンクの先まで行かずに、その場で判断を済ませるようになりました。
日本も、例外ではありません。むしろ、同時に進んでいます。
この変化は、英語圏に限った話ではありません。NTTドコモ モバイル社会研究所の調査(2026年2月公表、2025年11月実施)では、生成AIの利用者のうち64%が、「AIの要約だけで満足し、リンクを開かずに調べるのをやめることがある」と答えています。海外でいうゼロクリックが、日本語の生活者のあいだでも、すでに起きている、ということです。
利用そのものの裾野も、急速に広がっています。同研究所の別の調査では、国内の生成AI利用率は、1年で27%から51%へと、ほぼ倍増し、過半数に達しました。ICT総研(2026年2月)も、インターネット利用者の生成AI利用経験率を54.7%とし、国内の利用者数が2026年末に3,500万人規模に達すると見込んでいます。利用の中心は、ChatGPTやGeminiに代表される、対話型のアシスタントです。
つまり、日本の生活者も、すでに「AIに尋ねて済ませる」段階に入っています。これは、これから来る変化の予告ではなく、いま起きている現実です。
変わったのは「行動」だけではありません。AIが何を引用元にするか、です。
利用者がAIに尋ねるようになると、選ばれるか・推されるかは、「AIが、どの引用元・参照元を根拠に、答えを組み立てるか」に左右されるようになります。従来の検索順位とは、別の力学が働きます。自社サイトの順位を上げることと、AIに推されることは、もはや同じではありません。
ここで見落とされやすいのが、AIが参照する引用元の構成は、市場や分野によって大きく異なる、という点です。私たちの継続観測でも、AIが推薦の根拠として用いる引用元は、分野によって、口コミ系のプラットフォーム・価格比較・公式情報などの比重が入れ替わり、一様ではないことが、繰り返し確認されています(分野別の詳細は、別稿で扱います)。同じ「おすすめ」という一語でも、AIが頼る引用元の顔ぶれは、業種をまたぐと、ごっそり入れ替わります。
だから、海外の計測の枠組みは、日本にそのまま使えません。
AIが日本語の問いに答えるとき、その根拠として引かれる引用元は、日本の生活者が信頼してきた国内のプラットフォームや公式情報に、強く依存します。英語圏で標準的に参照される引用元と、日本語圏で参照される引用元は、顔ぶれも、序列も、異なります。
したがって、海外で設計されたAEO/GEOの計測の枠組みは、海外の引用元を前提に作られている以上、日本市場のAI推薦の実態を、そのまま映しません。為替や物価の指標を、他国のもので代用できないのと同じく、AI推薦の計測も、市場ごとに固有の引用元の構造の上に、組み直す必要があります。海外のベンチマークが「日本でも通用するはず」という前提は、ここで崩れます。
日本市場の計測は、日本市場のなかでしか作れません。
以上から導かれる帰結は、単純です。日本市場で、AIに「何を根拠に、誰が、なぜ推されているか」を把握するには、日本固有の引用元の構造を、日本市場のなかで、継続的に観測する計測が要ります。一度きりの調査ではなく、月次で積み上げる時系列でなければ、変化の方向は捉えられません。
そして、この変化の記録は、後から振り返って再現することができません。見ていなかった期間に何がどう動いていたかは、取り戻せないからです。早く・継続して見ることの静かな価値は、ここにあります。
AEO総研は、この「日本市場に固有の、AI推薦の根拠」を、中立の立場から、継続して計測することを役割としています。生活者の行動が変わったいま、測るべき対象もまた、海外の借り物ではなく、日本市場そのものです。
自社は、日本市場のAIに、どんな引用元を根拠に推されているでしょうか。
その問いから始まる無料の診断ツール「CWO Site Audit」を公開しています。観測から始まる、というだけのものです。
Site Audit を試す →本稿は、生活者の情報行動の変化と、それが「日本固有の計測」を必要とする理由を、振り返りとして整理したものです。引用元の評価規則や、自社の月次の観測値、地図を読み解く具体的な手法には立ち入っていません。
- NTTドコモ モバイル社会研究所「6割超がAI要約で検索完結」2026年2月5日公表(2025年11月、全国15〜79歳)
- NTTドコモ モバイル社会研究所「生成AI利用率、過半数に」2026年4月6日公表(2026年2月調査)
- ICT総研「2026年2月 生成AIサービス利用動向に関する調査」2026年2月公表
- SparkToro/Datos「Zero-Click Search Study」(2024)、Bain & Company(2024年12月)、Semrush(2025)
- BrightEdge AI要約出現率データ(2026年2月)
※ 海外の数値は調査主体により幅があり(米国のゼロクリック率はおおむね58〜65%)、本稿の数値は各調査の公表時点のものです。最新値は各一次調査をご参照ください。