本稿は、公開された第三者の論考および調査と、私たち(AEO総研®)の継続観測をもとに、「AIに選ばれる」という問いを、振り返り(retrospective)として整理したものです。各論点の根拠は既発表の調査ノート(Findings)に置き、本稿ではそれらを突き合わせます。引用した第三者の数値はすべて末尾に出典を明記し、自社の月次の観測値・スコアリング手法・引用元の評価規則には立ち入っていません。
前提の転換そのものは、私たちの観測とも一致します。
その論考(電通報 2026年8月28日/情報メディア白書2026)は、「どのメディアで、誰に、いくらで届けるか」という従来の設計が崩れ、「AIに選ばれるブランドであるか」が出発点になりつつある、と述べています。背景として、国内の生成AIの月間利用率が個人全体で35.6%に達し、10代では8割を超えたこと、利用目的の47.1%が「検索の代わり」であること、テレビの視聴時間が2015年の181.3分から2025年の105.3分へ減ったことを挙げています。
この方向は、私たちの観測とも一致します。論考は「生活者が接触するメディアは減るが、その裏でAIが接触する引用元は爆発的に増える」と述べていますが、これは私たちが既に実測しています。同じ質問文・同じ方法で観測しても、AIが回答に添える引用元の数が、わずか1か月で大きく増えていました。増えた先は、大手の比較サイトではなく、個人が書く記事や体験談の面でした(AIの引用元、1か月で2.2倍に)。問題は方向ではなく、そこから先です。論考が実測として示したのは「損害保険の分野で、ブランドの出現率が想起率と高い相関を示した」という一点で、他の論点は、これから確かめられるべき仮説として提示されています。以下では、私たちが観測で確かめてきた点と、順に突き合わせます。
想起は、実売ではありません。ある分野では、逆転しています。
論考は「AIに想起されること」と「人に想起されること」の一致を、最終的な選択の条件として置いています。想起の重要性そのものは、私たちも否定しません。ただ、ここには、もう一つの軸が抜けています。実際に売れているか、という軸です。
自動車保険の分野を観測すると、AIの推薦は、ネットで契約が完結する通販型に大きく偏ります。一方で、実際の契約の中心にあるのは、対面の代理店を主軸とする大手各社です。つまり、AIが推す顔ぶれと、市場で実際に選ばれている顔ぶれが、逆転しています。想起(頭に浮かぶこと)と矛盾するわけではありません。しかし、出現率や想起率だけを見て「AIに選ばれている=選ばれている」と読むと、実売との、この逆転を見落とします。「AIがいちばんよく名前を挙げるブランドが、各社がそろって力を入れている条件では、かえって目立たない」——この構造は、業種をまたいで繰り返し確認されています(値段や品質を競っても、AIの1位にはならない)。本稿は分野レベルの記述にとどめ、個別のブランド名には立ち入りません。
認知の大きさも、広告の投下量も、推薦を決めていません。
論考は、SNSでの言及量やクチコミ(UGC)を、AIが推薦リストを組むときのシグナルとして挙げ、想起を増やすための投資を勧めています。方向は理解できます。ただ、私たちの観測は、もう少し込み入った像を示します。
広告の出稿量が最も大きい顔ぶれ——テレビや通販で最もよく見かける各社——が、AIの推薦にはほとんど現れない。そういう分野が、性質の異なる複数の領域(美容家電、ワイヤレスイヤホン、ランニングシューズなど)で観測されました。AIが推すのは、比較や評価の場で「この用途にはこれが最良」と構造化された顔ぶれです。SNSやクチコミについても同じで、個人の投稿や動画がAIの引用の根拠に入る比重は、分野によって大きく振れ、無形のサービス分野では、ほとんど引かれないこともありました。「言及を増やせば、AIに載る」は、分野を選びます。AIが「なぜ」そのブランドを推すのか、その理由の型は、別稿で分類しています(AIが自社ブランドを推す理由)。
「高関与だから一律にこう」とは、括れません。
論考は、家電・旅行・住宅・自動車・保険・金融・BtoBサービスといった高関与の商材で、AIの影響が急速に高まる、と述べています。これはその通りだと考えます。ただ、「高関与だから、一律にAIの推薦リスト上位を狙えばよい」とは、括れません。
たとえば、自動車と自動車保険は、どちらも高関与ですが、AIが引用の根拠とする引用元の顔ぶれと序列は、質的に異なります。自動車保険では、料率や条件を並べて比べる場面で、各社の公式情報が引用の根拠として一定の役割を持ちます。一方、自動車そのものでは、メーカーの公式な製品ページが引用の根拠になることは、ほとんどありません。同じ「高関与」でも、公式情報が効く分野と、効かない分野があり、打ち手の効く場所が違います。「業種を問わず効く万能なAI対策は存在しない」こと(何が、AIの推薦を決めているのか)、そしてBtoBでは公式サイトを強くしてもAIに引用されるとは限らないこと(公式サイトを強くしても、AIに引用されるとは限らない)は、いずれも観測で整理しています。カテゴリごとに戦略を差別化するという論考の第3の軸は正しく、その差別化の中身は、分野ごとの引用元の構造を観測して初めて具体化します。
そして、まだ測れていないことは、測れていないと書きます。
ここまで、観測で確かめられた点を挙げてきました。一方で、論考の中心的な提案の一つ——新聞・雑誌の広告特集が、AIに引用されやすい一次情報源になる——については、私たちはまだ、継続観測での検証を持っていません。編集責任とファクトチェックを備えた一次メディアが引用されやすい、という仮説自体は、もっともらしいと考えます。しかし、確かめる前に「効きます」とは申し上げません。
測れていないことを、測れていないと書けること。当たった規則だけでなく、外れた予測も書き換えずに残すこと。これは、継続観測を役割とする立場の、最低限の作法だと考えています。この論点は、今後の調査ノートで、観測がたまり次第あらためて扱います。
打ち手:想起の設計と、引用元の設計を、分ける。
では、何をすればよいのか。ここまでの照合から導かれる打ち手は、単純です。想起の設計(人の頭に残す)と、引用元の設計(AIが根拠に引く場所を整える)を、別のものとして扱うことです。
- 引用元の顔ぶれを把握する。自社の分野で、AIが実際に引いている引用元・参照元の顔ぶれと序列を、まず知る。
- 評価の場で構造化される。比較・評価の場で、自社が特定の用途に対して「最良」として構造化される状態をつくる。
- 投資先を分ける。公式情報が引用の根拠として効く分野かどうかを見極め、効く分野には公式情報を、効かない分野には別の面に投資する。
- 同じ物差しで、継続して計測する。施策の前後を同じ基準で観測し、効いた打ち手だけを残す。
AIが多くの場合、自社サイトではなく第三者の引用元から答えを組み立てること、そして無名のブランドが引用元をどう使えるかは、別稿で整理しています(AIは、どこから引用してくるのか)。私たちが続けているのは、こうした構造を、思いつきや事例の寄せ集めではなく、観測する前に予測を立て、観測で当たり外れを記録するという手順で積み上げることです。当たった規則も、外れた予測も、書き換えずに残します。日本語のAIが、何を根拠に、誰を、なぜ推すのか——その構造は、市場のなかで継続して見ているあいだにしか、たまっていきません。そして、見ていなかった期間の変化は、後から取り戻すことができません。「AIに選ばれる」を出発点に置くなら、まず必要なのは、それを測る物差しです。
自社は、日本市場のAIに、どんな引用元を根拠に推されているでしょうか。
その問いから始まる無料の診断ツール「CWO Site Audit」を公開しています。観測から始まる、というだけのものです。
Site Audit を試す →本稿は、第三者の論考および公開調査と、自社の継続観測をもとに、「AIに選ばれる」という問いを振り返りとして整理したものです。自社の月次の観測値、引用元の評価規則、引用元の構成を読み解く具体的な手法には立ち入っていません。各論点の詳細は、本文中でリンクした調査ノートをご参照ください。
- 電通報「『届ける』から『選ばれる』へ。AI時代のメディア戦略とは?」2026年8月28日(情報メディア白書2026 連載「AI時代のコネクションプランニング」第1回)
- 上記論考が典拠として挙げた生活者調査:電通「Tunes 2025 Spring」(生成AI利用率・利用目的)
- 上記論考が典拠として挙げたメディア接触調査:ビデオリサーチ「MCR/ex」2015年・2025年(テレビ視聴時間)
※ 第三者の数値は各調査の公表時点のものです。最新値は各一次調査をご参照ください。本稿における自社の観測に関する記述は、分野レベルの傾向であり、月次の変化量・具体的な数値・手法は含みません。